旅館は地域の広告塔 そんな気概を持って働く

紅葉狩りの名所として全国から観光客が訪れる栗駒山のほど近く、世界遺産の平泉観光の拠点にもなる一関温泉郷。点在する6つの温泉旅館はそれぞれ泉質が異なるため、六様の湯を楽しめる温泉地です。

6つの宿で構成する一関温泉郷協議会のうち、今回「厳美渓温泉 いつくし園」「山王山温泉 瑞泉郷」「祭畤温泉 かみくら」の3軒が新しいスタッフを募集しています。

現在、新型コロナウイルスによって宿泊業界全体が厳しい状況にあることは周知の事実です。3軒の宿もその例に漏れず、それぞれ大きな打撃を受けていますが、そんな今だからこそ、新たな人材が必要だといいます。

どのような人が求められているのか、これからの旅館業の在り方など、各館の支配人が語ってくれました。

今、新しい人を入れる意味

一関温泉郷協議会員が談話中

「何と言っても従業員の高齢化が深刻です。もちろん、ベテランが多いのはいいことではありますが、職場環境をより良いものにするためにも、次世代を担う若い人材が必要だと考えています」と話す、いつくし園の千葉敏則さん。

「サービスの内容も時代とともに変わっているので、旅館も働く人間も変わっていかないといけない」と言葉をつなぎます。

一関温泉郷協議会従業員さん①

旅館で働くと一口に言っても、「表の仕事と裏の仕事がある」という瑞泉郷の小野寺正幸さんの言葉通り、その内容は多岐にわたります。

お客さまをおもてなしするのが表の仕事なら、そのための準備や事務的な作業など、はたから見えない裏の仕事もかなりの割合を占めるのが現実。また、常に他のスタッフと連携しながら業務に当たることがとても重要になってきます。

3軒のうち、従業員10人以下と比較的小規模なかみくらの佐藤奈保美さんは「小さな旅館なので、一人ひとりが多くの業務をこなし、それぞれが担当部署の責任を担っています。一方で、社員同士が連携してお客さまの多様なご要望にお応えしていくことは、やりがいやスキルの向上にもつながります。大自然や周辺の魅力的な環境を存分に生かし、遊び心とおもてなしの心でお客さまをお迎えすることが私たちのモットーです。豊かな想像力を持ち、自分の得意なことをおもてなしに生かせる方に来ていただきたいですね」と話します。

一関温泉郷協議会従業員さん②

小野寺さんは「正直、コロナの影響で今は人材不足で困る場面というわけではありません。でも逆に言うと、人を育てる時間がたっぷりあるんです。収束後を見越して新しい人に来てもらって、しっかりとスタートダッシュが切れるようにしたい」と、コロナ後を見据えた展望を語ってくれました。

一関温泉郷協議会談話中

スタッフ全体のスキルの底上げ、業務の効率化を図る、職場環境をより良いものに。

各館それぞれに課題があり、新しい人材が加わることで起きる変化に期待感を持っています。

そして、それは「今」だからこそ求められているのです。

刻一刻と変わりゆく社会情勢、これまでの常識や価値観が揺らぎつつある今この時を共に乗り越え、新しい時代をつくっていくこと。

むしろ、こんな時だからこそ挑戦したい、と思えるような人が望ましいのかもしれません。

宿を通して地域の魅力を知ってほしい

今回募集している新たなスタッフは、いつくし園、かみくらがそれぞれ1名ずつ。瑞泉郷が2名。各館が抱えている問題は異なりますが、それらを解決できるように動き、お客さまとのやりとりだけでなくスタッフ同士のコミュニケーションの質や関係性を良好に保つことで、旅館全体の雰囲気をも良くするような働きが求められています。

その一方で、各旅館を通して温泉郷全体、ひいては地域を盛り上げたいという協議会の目標のためにも積極的に取り組んでほしいといいます。

旅館1

そもそも一関温泉郷協議会とはどんな組織なのでしょうか。

冬のスノートレッキングイベントや地元のいわて南牛が食べられる宿泊プランなど、6館共同の企画を実施したり、意見交換の場として定期的に会合を開いたり。

旅館同士で密に情報共有をし、忌憚(きたん)なく意見を言い合える関係性だといいます。

一関温泉郷協議会談話中

「1軒の旅館では難しいことも、協議会という組織があってみんなで協力するからできる、ということがたくさんあります」と言う佐藤さんは、協議会の事務局長でもあります。

共通しているのは、それぞれの旅館だけでなく、温泉郷の全ての旅館にお客さまを呼びたいという思い。

地元の隠れた魅力をどう発信していくか、地域全体をどうやったら盛り上げていけるかということを、協議会では常に考えているのだそうです。

旅館_温泉

一方で、一関温泉郷は県内の他の温泉地に比べても認知度が低いことが課題だといいます。

「100kmも離れていない仙台でも、『一関温泉郷って知ってますか?』と聞いたときに知らない人がほとんど。それが現実です」と小野寺さん。

平泉、厳美渓や猊鼻渓、栗駒山、骨寺村荘園遺跡、手つかずの原生林や田園風景。

息をのむような大自然や素晴らしい文化遺産がすぐ近くにあることのメリットをどのように生かし、伝えていくか。

まだまだアピールが足りていないことに加え、PRの仕方についても模索している状況だそうです。

協議会の事務局次長でもある千葉さんは、「一関温泉郷はできてから29年の比較的新しい温泉地です。旅館は6軒だから少数精鋭というか、少ない中で切磋琢磨(せっさたくま)しながらやってきました。みんなで何かをするときにも、意見がまとまりやすい環境です」と話します。

協議会の6軒の旅館は「お互い何か困ったときには助け合いながらやってきた、戦友のような関係」(小野寺さん)。

「旅館が地域を輝かせていく役割を担っている」と語る佐藤さんの言葉からも、温泉郷を盛り上げ、地域の魅力を伝えるために、皆が同じ方向を向いて進んでいることが伝わってきます。

こういった環境に飛び込んで、積極的に提案したり、自ら行動できたりする人材が求められているようです。

風鈴

旅館は人間力を高められる場所
小さな宿だからできること

「私自身、たくさんのことを教わりました。職場だけでなく、お客さまからも。今こうして自分がいるのは、お客さまがいたからでしょうね」と千葉さん。例えば仲居として働くと、細かいところまで目が届くようになり、所作や言葉遣いも磨かれるといいます。

一関温泉郷協議会エントランス

旅館やホテルといった宿泊施設は、老若男女さまざまな人が国内外から訪れる場所。お客さま一人ひとりに適切な対応をしていく必要があるので、教養も問われます。

「技術以前に、その人自身の人間性が試される業種だと思います。自分の身一つでお客さまに喜んでもらうんですから、すごい仕事ですよね。それに、お客さまと真摯(しんし)に向き合うことで自分自身を見詰め直すきっかけにもなります」と佐藤さん。

時代とともに旅館・サービス業の在り方が変わってきたものの、本来は誇り高い、さまざまな醍醐味(だいごみ)のある仕事だといいます。

小野寺さんは「旅館はお客さまが楽しみに来てくださる場所なので、できるだけ多くの方に満足して帰っていただきたい。それと同時に、従業員にもやりがいを持って楽しく仕事をしてもらうための職場づくりをしたいと思っています」と話します。

旅館テラス

持てるスキルや経験、知識をフルに生かすことができる環境と、新しいチャレンジを受け入れる柔軟な思考を持った支配人、協議会という器。

そこには、ある旅館の一スタッフとして働くというだけではない、大きな可能性が感じられます。

「自分の特性を生かし、ここで能力を開花させてほしい」。

3人の支配人は新たに加わるスタッフへの期待を込めてこう語ります。

変わりつつある世の中において、これから先旅館にできることは何なのか。

小さな温泉旅館を舞台にアクションを起こしてみるのもいいのではないでしょうか。


-各温泉旅館の紹介-
厳美渓温泉 いつくし園http://www.itsukushien.co.jp/

旅館全体像

一関の観光名所である厳美渓のほど近くにあり、渓流のせせらぎを聞きながらゆったりと過ごすことができる。

山王山温泉 瑞泉郷http://zuisenkyo.com/

旅館エントランス

緑豊かな山々に囲まれ、四季を通して移ろう景色を楽しめる。やわらかい泉質の温泉が体と心を癒やしてくれる。

祭畤温泉 かみくらhttps://m-kamikura.com/

旅館玄関

神々が降り立つと言われる祭畤山の麓、大自然に囲まれた場所にあり、ひっそりと穏やかな時を感じられる。

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